研究概要 |
流体生産フラクチャーには現在の地熱流体から生成したと推定される石英や硬石膏などの熱水性鉱物が分布する傾向にある。このことは,複数の地熱系発達史のなかで生成した同一種の熱水性鉱物のうちから現地熱系で生成したものを特定できるならば,その熱水性鉱物はフラクチャーの指示鉱物と成り得ることを示唆する。このような観点にたち,地熱井の掘削現場におけるリアルタイムな坑井調査に適したカソードルミネッセンス(CL)簡便法を用いて,生成時期の異なる方解石と硬石膏を判別することが可能か否かを明らかにすることを目的として,森,葛根田,松川地熱地域を対象に,複数の生成時期をもつ硬石膏と方解石のCL像観察を実施した。 森地域では,上磯層群の石灰岩を構成する方解石、熱水性鉱物脈の方解石,および方解石スケールの3者はいずれも赤色のCL像を示し,生成時期による差は認められない。一方,熱水性鉱物脈の硬石膏および硬石膏スケールのCLは無発光が支配的であるが,無色/青緑色のCL像が一部試料で観察される。葛根田地域では、浅部貯留層産硬石膏は無発光であるが,深部貯留層産硬石膏は青緑色ないし赤茶色を呈し,赤茶色のCL像を示す硬石膏が最新の晶出であると推定される。現地熱系および古地熱系(第三紀)で生成した硬石膏間にCL像の違いは認められない。松川地域では,完全閉塞した熱水性鉱物脈の硬石膏は無色/青緑色のCL像,逸泥近傍の脈状硬石膏は無発光である。以上の予察結果は,CL像が生成時期を異にする硬石膏を判別するのに有効である可能性を示唆している。なお,葛根田と松川地域では観察試料が非常に少なかったので,今後試料を増やして補足観察する必要がある。
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