5-enolpyruvylshikimate-3-phosphate(epsp)合成酵素はシキミ酸経路の反応を触媒し、フェノール環を有するアミノ酸の合成に関わる。また、このタンパク質は除草剤の標的タンパク質でもある。イネにおいてepsp合成酵素遺伝子(epsps)は1コピー存在し、第6染色体短腕waxy遺伝子座の下流約45kbに位置する。epspsの下流にはリボソームタンパク質S-40遺伝子(rps40)が逆鎖に隣接している。本年度はこれら2つの遺伝子を含む約10kbの領域の構造を決定し、遺伝子の構造を明らかにした。epspsは8つのエクソンから成り、511のアミノ酸残基がコードされている。このN末端には葉緑体へ移行する170アミノ酸残基のシグナルペプチドが備わっている。一方、rps40は3つのエクソンを持つ全長128残基のタンパク質をコードしていた。 2つの遺伝子の関隙には、300bpと極端に短いスペーサーが介在している。本研究課題ではこのスペーサー領域が両遺伝子の発現にどのように影響を及ぼし、イネの種分化にどのように関与してきたかに着目して研究を進めている。本年度は300bpのスペーサー部位の変異とイネ属近縁種の種分化の関係について調査した。その結果、同スペーサーはイネ属近縁種間で急速に変異していることを判明した。スペーサー部位の同義置換率は近傍遺伝子(epspおよびrps40)のエクソンの3倍イントロンの1.5倍であった。一般に高等真核生物のスペーサー領域にはレトロポゾン等が挿入し、遺伝子そのものよりも長い傾向にある。本実験では2つのハウスキーピング遺伝子に狭まった短いスペーサーをPCR増幅により容易に得られるという利点を活かして遺伝子内領域の進化速度とスペーサーの速度を比較することができた。また、epsp-rps40スペーサーは、イネ属種間の系統分化の指標になると考えられた。
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