イネの5-enolpyruvylshikimate-3-phosphate(epsp)合成酵素とrps40(rps20に変更)遺伝子は第6染色体短腕waxy遺伝子の下流約45kbpに位置する。両遺伝子は生体維持に必須のハウスキーピング遺伝子である。この2つは逆鎖にコードされており、3'側を向かい合わせにわずか300bpのスペーサーによって隔たっているにすぎない。本研究では、両遺伝子が正確に転写を終結しているのか、あるいはわずか300bpというスペーサーを介してアンチセンスRNAが発生し、それに伴う遺伝子発現の制御がなされる可能性があるか否かを検証した。同時に、300bpの両遺伝子間部位を種間で比較することによって、これまで殆ど解明されいていなかったスペーサーの変異発生機構に関して知見を得ることができた。まず、Oryza sativaのジャポニカおよびインディカの葯、頴花、実生、根からそれぞれRNAを単離し、ノーザンハイブリダイゼーションを行い、epsp合成酵素遺伝子の発現は、葯で非常に弱く、rps20は根で殆ど発現が検出されないことから、組織間で両遺伝子の発現パターンに明瞭な差のあることを見出した。次に、スペーサーを交叉した転写産物の存在を調査するため、イネカルスのcDNAを合成し、RT-PCR実験を行った結果、互いの遺伝子の転写がもう一方の遺伝子領域に侵入したと思われるデータが得られた。従って、スペーサーをまたぐ転写産物が存在する可能性は高く、このことは、2つの遺伝子が互いにアンチセンスとなるRNAを伸長していることを示唆しており、今後両遺伝子の発現調節とどのように関連するかより詳細な調査が必要となろう。さらに、300bpのスペーサー部位の変異とイネ属近縁種の種分化の関係を調査した結果、スペーサーはエクソンの3倍、イントロンの1.5倍の同義置換率で変異を生じていることが判明した。これとは別にイネのカルスを20年継代した細胞系において、両遺伝子領域の変異を調査した結果でも、スペーサーへの変異の蓄積が他の部位と比較し、有意に高いことが明らかとなった。
|