種子へのリンの貯蔵を制御している可能性の高い酵素、イノシトール1リン酸合成酵素の発現制御機構を明らかにすることで、種子におけるリン酸貯蔵(フィチン貯蔵)の意義、および役割を明らかにすることを目的として、以下の実験を行った。 1.CaMV35Sプロモーターに連結したセンス及びアンチセンスのイノシトール1リン酸合成酵素遺伝子を導入した形質転換イネを作出した。これまでのところ形態異常は見つかっていない。 2.イネ成熟種子胚盤から誘導したカルスを材料として、イノシトール1リン酸合成酵素遺伝子の糖、リン酸、およびABAに対する応答をノーザンブロット解析により調査した。その結果、本酵素はリン酸には応答しないが、糖及びABAに応答して発現が誘導されることが明らかとなった。糖による応答については、sucroseやglucoseでの誘導が観察されるのに対し、mannitolでは誘導されないことから、浸透圧の変化によって本酵素が誘導されるのではないことが明らかとなった。さらに、糖単独、あるいはABA単独の処理と比較して、糖とABAを同時に処理した場合にイノシトール1リン酸合成酵素の発現が高まることが示され、糖とABAに相乗的効果があることが明らかになった。 3.イネのゲノミックライブラリーよりイノシトール1リン酸合成酵素のゲノムクローンを単離し、プロモーター領域の配列を明らかにした。その結果、ABA応答配列、及び糖応答様配列の存在が明らかになった。 4.イネのイノシトール1リン酸合成酵素プロモーターにGUSレポーター遺伝子を連結したコンストラクト導入形質転換イネを作出した。
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