研究概要 |
オオムギのβ-アミラーゼの活性ならびに耐熱性はビールを醸造するうえで重要な特性である。予備調査の結果、β-アミラーゼの耐熱性にはA(高)、B(中)、C(低)の3型があり、更にB型は等電点電気泳動のパターンによって2型に分かれることが知られている。 本研究では大麦・野生植物資源研究センターが保有する約6,700のオオムギ栽培品種を供試して耐熱性の品種変異を評価し、(1)大部分がA、B、Cの3型に分かれること、(2)A、B、C型は明らかな地理的分布を示し、B型が中近東の起源中心に分布し、A型は東アジア、C型はヨーロッパからエチオピアに偏在すること、(3)A、B、Cの中間ならびにA型よりも耐熱性が強い系統やC型よりも弱い系統も少数存在すること、(5)β-アミラーゼの活性を完全に欠く変異体がチベットとネパールの2ヵ所に存在すること、(5)等電点電気泳動のパターンに関して、B型の中にはすでに知られているBIとBII型の他に新たなBIII型とBIV型が1系統ずつ見出された。また、系統発生的にBII型が祖先型であり、BI型は北欧で起源して南と東に分布を拡げたとみられることが明らかになった。 これらの事実はオオムギの起源と地理的分布について重要な知見であり、また、耐熱性の育種に貴重な遺伝資源を見出したものである。特にβ-アミラーゼ欠失型の変異体は醸造原料として全く新しい素材を提供するものである。またA型を越える高度耐熱性系統(スーパーA)はビール醸造効率を著しく高めることが期待され、ビール醸造業界でも注目している。 次に、いずれもB型に属ずるSteptoe×Morex(S/M)とHarrington×TR306(H/T)の倍加半数体各150系統と親品種を用いて耐熱性のQTL解析を行った。H/Tでは有意なQTLが見出されなかったが、S/Mでは2Hと4H染色体上に有意なQTLが見出された。2H上のQTLは作用価が小さかったが、4H上のQTLは作用価が大きく、これはBmy1上のアイソザイムBI型とBII型を分ける複対立遺伝子とみられた。
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