ハナショウブの外花被含有アシル化アントシアニンはパラ・クマール酸による単独のアシル型であるので、これを遺伝子導入によりポリアシル化型に改良すればアントシアニンの安定性の著しい増大が期待できる。そこで、本研究ではアントシアニンのポリアシル化によりハナショウブの花色発現の安定化を促進し、その観賞価値を高めることを目指しており、本年度はアントシアニンアシル基転移酵素の特性解明および有用アシル化アントシアニンの探索を行った。得られた成果は以下の通りである。 (1)シアニック系アシル型品種「花籬」の花蕾からの酵素抽出物はパラ・クマロイルCoAからパラ・クマール酸の転移をアントシアニジン3RGおよび3RG5Gの両方へ触媒し、その比率(前者:後者)は約1:4であった。これに対して、アントシアニジン3Gへの酵素活性は認められなかった。また、「花籬」以外のシアニック系アシル型品種における酵素活性もmalvidin 3RGよりもmalvidin 3RG5Gの方が高かったが、その活性度は品種により異なっていた。 (2)アシアニック系の品種では、「磯打波」および「鶴の毛衣」の酵素活性が認められなかったが、「浮寝鳥」および「雪燕」では弱い酵素活性を示した。このように、アシアニック系ではアントシアニンの生合成系が機能していないにもかかわらず、アシル化酵素活性を有する品種の存在は注目に値した。 (3)ハナショウブの品種および野生系統におけるアシル化アントシアニンの有用変異を探索したが、新たなアシル化アントシアニンの発見には至らなかった。
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