研究概要 |
植物育種における選抜方法の良し悪しは、選抜反応の期待値E(R)でなく、S/C(S=選抜目標が達成される確率、C=そのために費やすコスト)によって判断すべきであることを私は提案する。S/Cを大きくする方法は、個々の選抜対象集団で最善の選抜結果を保証するものではないが、長期的にみた場合の選抜の成功回数を最大にする(Yonezawa et al.1999)。本年度の研究では、他殖性植物集団に対する5つの選抜方式、すなわち、MSS:母方個体の表現型値による通常のMass selection、FAM1&2:半兄弟家族間および内選抜(1:集団全体無作為交配,2:家族内無作為交配)、HSP:半兄妹家族を用いた後代検定による選抜、FSP:全兄妹家族を用いた後代検定による選抜、を取り上げ、それらの効率S/t(年数を重視する場合はCをtとしてよい)をモンテカルロ、シミュレーション(選抜1回あたり個体数はMSS、FAM1、FAM2で5000、HSP、FSPで10000、選抜強度はいずれの方式も毎回5%、シミュレーションの反復回数は10000)によって求め、比較した。従来の植物選抜理論におけるように、無限集団に対する選抜1回後のE(R)の大小でみれば、一般には手の込んだ方式ほど有利という結論になる。しかし、本研究の計算結果では、現実的に可能な条件下で選抜を複数回繰り返した後のF(R)についてみると、ランダムドリフが介在するので、必ずしもそうはならない。私が提案するS/tでみると、最も単純な方式であるMSSが他の方式に較べて格別劣るということはない。後代検定を伴う方式は、費やす時間(年数)の割には選抜効果が小さく、効率的とは言い難い。
|