研究概要 |
高等担子菌類ミトコンドリアゲノムの全体構造や遺伝子の構造・機能に関する分子遺伝学的知見は極めて少ない。本研究は、高等担子菌類の一種、ヒラタケPleurotus ostreatusミトコンドリアゲノムの全体構造と本菌自然集団で認められた極めて高い程度の制限酵素断片長多型(RFLP)の基礎の解明を目的に、2種類(517株および286株)の本菌ミトコンドリアゲノムの全塩基配列を決定した。その結果、両ゲノムDNAはそれぞれ71,948および72,466塩基対からなる環状分子で、両ゲノムの塩基組成にはA+T含量が73%を越える極端な偏りが認められた。517株ゲノムの塩基配列に対するBLASTやtRNA-scanプログラムを用いた検索により合計55個の遺伝子(2個のリボソーム遺伝子、26個のtRNA、14個の既知蛋白質遺伝子、イントロンorfを除いた13個の機能未知orf)の配列が同定された。本菌ミトコンドリアゲノムの遺伝容量は菌類で報告されているものとほぼ同じであると考えられた。同定されたtRNAの数はミトコンドリア蛋白質の合成を行うためには十分でなく、ミトコンドリアゲノムで検出できなかったtRNAは核ゲノムにコードされているものと思われる。517株と286株のミトコンドリアゲノム構造を比較したところ、同定された遺伝子数とその並び順および読み枠の方向に差は認められなかった。しかしながら、塩基配列レベルの比較においては複数の小規模な挿入/欠失や点変異が遺伝子間領域を中心に認められ、新たな制限酵素切断点の生成につながっているものも認められた。さらに、1kb以上の大規模な挿入/欠失が遺伝子間領域において、また、遺伝子内領域においては異なるイントロン配列の有無として認められた。とくにそれぞれのゲノムに保有されるイントロン配列の差異が両ゲノムで認められたRFLP生成の主たる基礎になっていることが示された。
|