近年、室内での培養技術の進歩に伴い、バレイショの小塊茎(マイクロチューバー、直径約5〜10mm、生重約0.5〜1.0g、以下MTと略記)をin-vitroの条件下で大量に生産することが可能になった。MTはウイルスフリーであり、また任意の時期に室内で生産できることから、新品種の緊急増殖が必要な場合や圃場での種イモ生産の困難な熱帯地域の国々で、種イモとしての利用が検討されている。しかし、圃場条件下でMTを種イモとして利用した場合の生育や生産性については不明な点が多い。そこで本研究では、早晩性の異なる主要栽培4品種のMTと通常の塊茎(生重50g程度、以下CTとする)を種イモに用いて圃場で栽培し、種イモの大きさが生育と収量に及ぼす影響を調査した。 1.MTはCTに比べ、萌芽期や萌芽率は同一であったが、生育初期の根および葉の生長量が小さく、開花始期は約10日ほど遅れた。また、塊茎形成始期が数日遅れ、塊茎肥大始期は1週間以上も遅かった。しかし、開花始期以降の根および葉の生長速度はMTの方が大きく、地上部最大期ではMTとCTがほぼ同一の根量と葉面積量になった。また、この後の塊茎の乾物増加速度はむしろMTの方が大きかった。 2.CTに対するMTの相対収量は約70〜90%を示し、MTは種イモとして極く小さいことを考慮すると、MTとCTとの収量差は比較的小さいものと判断された。しかし、早生品種は晩生品種に比べてMTの相対収量が低く、また生育初期に土壌が乾燥する年次や夏期が高温の年次ではMTの相対収量が低下した。 以上の結果から、MTを種イモとして利用する場合には栽培品種の選定や環境に対する安定性を考慮する必要があると結論した。
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