研究概要 |
本研究では、作物根系の水ストレスに対する反応を、根系を構成する各根が発揮する可塑性に注目して検討し、根系の発育・機能の、耐旱性における意義を明らかにしようとした。 本年度は、とくにイネについて、異なる土壌水分条件に対して、根系が発揮する発育・機能における可塑性を評価した。世界各地の水ストレスが問題になっている地域の作物栽培を考えると、生育期間を通じてストレスが徐々に進行していく条件に加え、生育途中で土壌水分条件が変化する場合の検討も重要になる。本研究では、乾燥後の降雨を想定した、水ストレス-再潅水、ならびに、とくにイネの天水田を想定した、湛水-乾燥-再潅水条件での根系反応についても併せて検討した。 次ぎに、トウモロコシ,ササゲ,イネについて、加齢に伴って進行する根系の老化過程に及ぼす水ストレスの影響を精査した。 これら研究では、根系発育過程を非破壊的に追跡しうる傾斜円筒法を用い、各構成根の発育過程を克明に記録した。また、イネにおいては、吸収した養水分を地上部へ輸送する潜在能力を評価するために、採取した根系について、各根系要素中の木部導管の発達程度を定量化した。さらに、これらの形態面から評価した吸水・通導能力と、実際の吸水量との関係を定量的に求め、根系の発育形態における可塑性の集水機能における意義を検討しようとした。 その結果、側根発達や節根発生の促進によって示された根系構造における表現型の可塑性には遺伝変異が存在し、またその可塑性は、水ストレス条件下、あるいは土壌水分変動下における作物の生育に重要な役割を果たしており、またその作物の耐旱性に密接に関係することを明らかにした。発育形態面で発揮された可塑性は、吸水・通導機能に強く反映した。 また、水ストレスは、トウモロコシ,ササゲ,イネ根系において、老化が早く進行する根の占める割合を増加させることを明らかにした。
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