リンゴのS遺伝子型と自家不和合性成立過程について以下の成果を上げた。 (1)リンゴのS遺伝子型の決定と未同定のS遺伝子群(S-RNase)の構造 リンゴ栽培種'印度'のS_g-RNase、'あかね'のS_d-とS_h-RNase、'デリシャス'のS_e-RNase、'旭'のS_i-RNaseの全構造を明らかにし、PCR-RFLP解析法に基づくS_d-、S_e-、S_g-、S_h-、S_i-allele同定法を確立した。また、S_5-およびS_f-allele同定法も確立し、リンゴ119栽培腫、17系統、合わせて136種のS遺伝子型を解析した。さらに、リンゴ野生種Malus transitoriaからS_t-とS_<g'>-RNaseを単離し、その全構造を明らかにするとともにリンゴ9野生種のS遺伝子型を解析した。日本と西欧のS-allele対応関係を明らかにし、S-allele表記について世界的には数字表記に統一すべきであることを提唱した。 (2)リンゴS-allele間の自他認識反応と新規S-alleleの成立過程 リンゴ野生種Malus transitoriaのS_<g'>-RNaseは栽培種'印度'のS_g-RNaseとRHV領域内において1アミノ酸のみ異なっていた。この1アミノ酸の違いで自己・非自己の認識が行われているのか、つまり両者は異なるalleleとして機能しているのか解析したところ、S_gとS_<g'>は同じalleleとして挙動していることが示唆された。これは、同じS-allele内のS-RNaseにおいて、個体もしくは品種間で推定アミノ酸配列レベルでの違いが報告された初めての例である。S_<g'>がS_<g'>とS_gの両者を認識できることから、Mattonら(1999)のモデルにより新たなS-alleleを生じている可能性が示された。 (3)リンゴS-RNaseの由来と自家不和合性の成立過程 リンゴS-RNaseは、野生種等を含む他のリンゴS-RNaseよりもナシのS_1-、S_4-RNaseと高い類似性を有することが示された。また、リンゴ野生種Malus transitoriaのS_t-RNaseも、リンゴよりもナシのS_3-、S_5-RNaseとより高い類似性を示した。S遺伝子群の分子系統解析から、リンゴ属のS-RNaseはリンゴ属とナシ属に分かれる前のナシ亜科の段階ですでに成立していた可能性が考えられた。このことは、バラ科植物のS-RNaseゲノム解析からも支持された。
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