本研究は、セイヨウナシ果実の成熟・軟化機構を分子レベルで解析し、高品質かつ可食期間の延長技術を開発の基礎としようとしたものである。エチレン生合成に関与する4種のACC合成酵素遺伝子、2種のACC酸化酵素遺伝子ならびに果実軟化に関与する2種のポリガラクチュロナーゼ遺伝子、2種のセルラーゼ遺伝子および8種のエクスパンシン遺伝子の全鎖長cDNAをクローニングした。さらに、成熟開始後、果実にエチレン作用阻害剤である1-MCPを処理したところ、一旦誘導された成熟誘導エチレン生成が顕著に抑制され、ACC合成酵素およびACC酸化酵素遺伝子の発現も低下した。したがって、セイヨウナシの成熟エチレン生成は、遺伝子の発現レベルで、エチレンによる正のフィードバック制御を受けていることが明らかになった。また、1-MCP処理によって、その後の果実軟化が顕著に抑制され、可食期間が2倍以上に延長された。MCP処理は、果実成熟時に発現している3種のエクスパンシン、2種のポリガラクチュロナーゼ遺伝子の発現を抑制したがセルラーゼ遺伝子の発現レベルにはほとんど影響しなかった。以上の結果から、セイヨウナシの果実軟化には、エチレンによって制御されるエクスパンシンおよびポリガラクチュロナーゼが重要な役割を果たしていることが明らかになった。したがって、セイヨウナシの日持ち性改善には、MCPの利用およびACC合成酵素またはACC酸化遺伝子を抑制した遺伝子組み換え技術が有効であると結論できる。
|