研究概要 |
クライマクテリック型果実としてリンゴ、非クライマクテリック型果実としてオウトウを供試し、果実発育中のジャスモン酸類の推移を検討した。リンゴ果実で、JAおよびMeJA濃度は発育初期に高く、満開後の日数とともに減少し成熟期間中に再び増加した。一方、オウトウ果肉中のJAおよびMeJA濃度は、発育初期に高く収穫期に近づくとともに減少した。リンゴ種子中のJA濃度も果実の発育初期で高く、一度減少した後、収穫時には最も高くなった。オウトウの種子で、JAとMeJA濃度は一般的に収穫まで増加した。両果実で種子中のJAとMeJA濃度は果肉中のそれらより高かった。以上の結果は、果実発育初期に比較的に高いJAおよびMeJA濃度が、細胞分裂などに関係している可能性、種子が果肉のJAおよびMeJA濃度に影響している可能性、リンゴにおいて、これらが着色を始めとした成熟現象に関与している可能性を示唆する。満開後15日、25日および35日のリンゴ果肉ディスクからのカルス形成に及ぼすジャスモン酸(JA)の影響を検討した。満開後15日の果肉ディスクのカルス形成は、NAAと0.45μM,1.0μMおよび4.5μM各々のJA濃度の組合せで促進された。満開後25日および35日の果肉ディスクのカルス形成は、JAの存在によって抑制された。内生JA濃度は満開後25日および35日に比べ、満開後15日で低かった。以上より、果実発育のごく初期には内生JA濃度が低く、その時期に限りJAのカルス形成促進効果が認められること、また高濃度のJAは逆に阻害することが示唆された。満開後93日(プレクライマクテリック)、満開後112日(クライマクテリック)および満開後133日(ポストクライマクテリック)に果皮をつけたリンゴ果肉ディスクを採取した。各時期においてMeJA処理区では対照区に比べアントシアニン濃度が増加した。またMeJAとAVGを組み合わせた処理区でも、アントシアニン濃度はMeJA単独区と大きく異ならなかった。このことは、ジャスモン酸類はリンゴのアントシアニン生成にエチレンとは独立して作用している可能性を示唆する。
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