タバコおよびオオムギより、アクチンおよびアクチン細胞骨格の制御に関与するRac遺伝子のクローニングに成功した。いずれの植物においても各遺伝子は多重遺伝子族を形成しており、cDNAライブラリーからのスクリーニングにより、複数の異なるクローンが得られた。各遺伝子の発現を半定量的PCRやノーザン解析によって調べたところ、器官や発育ステージ、病原菌接種を含む各種環境ストレス下で遺伝子毎に発現パターンが異なっていた。また、オオムギのHvAct3、タバコのNtAct1、NtAct5/6、NtRac1およびNtRac3は菌接種や付傷処理などのストレスに対して応答性を示すことが明らかになった。このうちNtRac1について、人工的に点突然変異を導入し、アクティブ型およびドミナントネガティブ型のタンパク質を生産する遺伝子を構築した。現在これらの変異Rac遺伝子をタバコに導入し、Racが耐病性や環境ストレス応答にどのように関与しているかを検討する予定である。また本研究の過程において、タバコ培養細胞のストレス耐性にアクチンが関与することが新たに明らかになった。タバコ培養細胞に熱、浸透圧、傷などのストレスを与えると、アクチン繊維の崩壊と再構築がおこり、この再構築を阻害すると細胞のストレス耐性能が著しく低下することが示された。この事実は、アクチン細胞骨格が病害抵抗性のみならず、種々の環境ストレス耐性に普遍的な役割を果たしている可能性を示唆している。
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