研究概要 |
植物病原菌の特異的感染機構や病原性の獲得機構を分子レベルで解明し,特定病害の検出・診断法の開発,さらには新たな病害防除法の創生を目指す目的で,以下の点について検討した。平成11年度における研究では,病原シグナル因子としての宿主特異的毒素(HST)に焦点を絞り,HST生産菌としては代表的な二種のAlternaria属菌,すなわち,トマトアルターナリア茎枯病菌(AAL毒素生産菌)と,リンゴ斑点落葉病菌(AM毒素生産菌)を題材とした。 茎枯病菌に関しては,変異体を得る手段として、近年開発され、その有効性が認められつつある遺伝子タギング法の一種であるREMI法を用いた。その結果,毒素非生産変異体の取得に成功し,野生株との感染行動の比較によって,病原シグナル因子としてのHSTの役割を明確にすることが出来た。現在,プラスミドレスキュー法等を用いて毒素生合成遺伝子,すなわち病原性遺伝子の単離を試みている。 一方,リンゴ斑点落葉病菌(AM毒素生産菌)においては,本毒素が環状ペプチド様構造を有することを利用して,本菌より,PCR法により環状ペプチド合成酵素(CPS)遺伝子をクローニングした。さらに,シークエンス解析,ジーンターゲッティングなどにより本CPS遺伝子が,AM毒素生合成遺伝子(AMTと命名)であることを明らかにした。本遺伝子は、13.3kbのORFを持つ巨大遺伝子であり、他の糸状菌、細菌などから単離された抗生物質生産などに関与するCPS遺伝子と高い相同性を示した。また,本遺伝子の塩基配列データより,PCR法を用いたリンゴ斑点落葉病菌の検出法を確立した。本法は,リンゴ斑点落葉病の発生予察,圃場生態研究において非常に有益である。
|