研究概要 |
植物病原菌の特異的感染機構や病原性の獲得機構を分子レベルで解明し,特定病害の検出・診断法の開発,さらには,新たな病害防除法の創生を目指す目的で,以下の点について検討した。平成12年度における研究では,11年度に引き続いて病原シグナル因子としての宿主特異的毒素(HST)に焦点を絞り,二種のAlternaria属菌,すなわち,トマトアルターナリア茎枯病菌(AAL毒素生産菌)と,リンゴ斑点落葉病菌(AM毒素生産菌)を題材として研究を進めた。 茎枯病菌に関して,本菌の生産するAAL毒素がポリケチド様構造を有することより,PCRによるポリケチド合成酵素(PKS)遺伝子のクローニングを試みた。その結果,毒素生産菌に特異的なPKS遺伝子のクローニングに成功し,ジーンターゲッティングにより本遺伝子が毒素生合成遺伝子,すなわち病原性遺伝子であることを証明した。一方,リンゴ斑点落葉病菌(AM毒素生産菌)においては,本毒素が環状ペプチド様構造を有することを利用して,本菌より,PCR法により環状ペプチド合成酵素(CPS)遺伝子をクローニングした。さらに,シークエンス解析,ジーンターゲッティングなどにより本CPS遺伝子が,AM毒素生合成遺伝子(AMTと命名)であることを明らかにした。本遺伝子は、13.3kbのORFを持つ巨大遺伝子であり、他の糸状菌、細菌などから単離された抗生物質生産などに関与するCPS遺伝子と高い相同性を示した。また,本遺伝子の塩基配列データより,PCR法を用いたリンゴ斑点落葉病菌の検出法を確立した。本法は,リンゴ斑点落葉病の発生予察,圃場生態研究において非常に有益である。 以上の研究成果より,本課題である「植物病原菌の病原シグナル因子生産に依存する宿主識別の分子機構」解明に向けて大きな進展が得られたとともに,農業生産現場における応用への道も拓かれたと考える。
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