植物ウイルスの中でも、世界中のアブラナ科植物(Raphanus属及びBrassica属植物)や園芸植物に被害を与えているカブモザイクウイルス(TuMV)を、アフリカ、ヨーロッパ、オセアニア、アジア、北アメリカ、南アメリカの各国から分離株を採集し、TuMVゲノムの両末端、即ち、5^1非翻訳領域及びP1遺伝子を含んだ5^1末端領域と外被タンパク質(CP)遺伝子及び3^1非翻訳領域を含んだ末端領域についてクローニングし、それらの塩基配列を決定した。その後、それらの塩基配列をもとに、近隣結合法を用いてP1遺伝子とCP遺伝子の分子系統樹を作成した。その結果、両系統樹において、南西ユーラシア大陸から採集した分離株のlineage、Raphanus属植物から採集した分離株のlineage、そしてBrassica属植物から採集した分離株のlineageが認められ、TuMVは宿主適応しながら進化してきたことが明らかとなった。また、それぞれのlineage内に幾つかのsub-lineageが認められ、それらが分離株の地理的分布を示すことから、TuMVでは地理的隔離が行われてきたことも明らかとなった。さらに両系統樹を詳細に比較すると、幾つかの異なる位相を示す分離株が認められ、これらの分離株は、ゲノムのP1遺伝子とCP遺伝子間で、或いはP1遺伝子とCP遺伝子内でrecombinationしていることが示唆された。さらに、南西ユーラシア大陸lineage内の分離株の遺伝距離が離れていたことから、おそらくTuMV起源は南西ユーラシア大陸と思われた。
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