インストロン型引張試験機を用いたテンサン幼虫把握力の測定条件の設定を行った。幼虫をプラスチック製の網につかませて引っ張り試験を行うと腹脚が網から離れてゆく過程で、いくつかの典型的なグラフパターンが見られた。グラフより「3大ピークの平均値」をもって幼虫把握力を比較するのが最も合理的であるとの結論に至り、この条件を各種飼育条件のテンサン幼虫に応用した。 全齢生葉育幼虫の把握力に比べて人工飼料育の幼虫では有意に弱い把握力が観測された。これは生葉育に移行した齢中には改善されないが、脱皮を経た翌齢には、明らかに把握力が回復した。 なお、クヌギ葉粉末含有率や水分率のの異なる人工飼料育や、飼育時の足場の有無は全く把握力に影響を与えないことも明確に示された。またこれらのの実験には通常の生活環の幼虫の他、イミダゾール系化合物を用いて人工孵化休眠打破処理をした幼虫でも同様に活用できることが示された。 テンサン幼虫の歩行行動はVTR記録とコンピュータによる画像解析を組み合わせて、行われた。幼虫体節につけたポイント間の距離(UNIT)の、歩行に伴う伸縮は、クヌギ生葉育幼虫の場合には前部から後部へ向かって整然と同調して観察されたのに対して人工飼料育幼虫ではこの同調がほとんど見られず、彷徨するような足どりであった。ま先体節の伸び縮みの大きさも生葉育の1/3以下であり、いかにも力強さのない歩行行動であった。これがひいては幼腹脚把握力のちがいにも通じるものと思われるが、人工飼料の栄養成分との関連性については明らかにすることができなかった。 人工飼料育から生葉育に移行して就眠・脱皮を経ると腹脚把握力が回復する事実から、稚蚕期の人工飼料育と壮蚕期の立木放飼育の間に生葉室内育を挟む総合飼育体系が提案された。
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