鱗翅目昆虫の重複遺伝子として、カイコのアルカリ性ホスファターゼ(ALP)遺伝子に注目した。2つのアルカリ性ホスファターゼアイソザイム遺伝子(膜結合型:mALP、遊離型:sALP)を含むゲノム領域をクローニングし、構造上の特徴を明らかにした。また、両遺伝子発現の時間的変動を調査した。これらから、両遺伝子の重複の様態、調節機構と機能の分化について考察した。本研究により明らかになった主な結果は、(1)約12kbのゲノムDNAの塩基配列を決定したところ、mALPとsALP遺伝子は同一染色体(おそらく第3染色体)上に、約4.4kbの距離で同じ転写方向に並んでおり、mALP遺伝子がsALP遺伝子の上流に位置していた、(2)mALPは5つ、sALPは4つのエクソンに分断されているが、両遺伝子間のエクソン塩基配列は60-80%の相同性を示した、(3)エクソン-イントロン構造の違いは、mALP遺伝子の2番目イントロンに相当するイントロンがsALP遺伝子には存在しないことによる、(4)両遺伝子mRNAの消長パターン(孵化の直前に出現し5齢盛食期まで漸増するが、吐糸を前に消失する)は非常によく似ており、転写調節の時期特異性はともに幼虫の摂食活動と強い相関を示す、などである。
|