研究概要 |
ホウ素は高等植物の必須元素で,この元素が欠乏すると細胞は死ぬ。われわれはホウ素がペクチン質多糖鎖をラムノガラクツロナンII領域で架橋することによって必須作用を発揮すると提案してきた。ホウ素が欠乏した細胞ではペクチン質多糖鎖は架橋されないと考えられるが,ホウ素欠除細胞にはホウ素が欠除される直前までに形成された架橋が存在するため,実験的には架橋されていないペクチン質多糖鎖を検出することが出来なかった。 そこでホウ素の施用量を極端に下げた培地でも死滅しない低ホウ素耐性細胞を選抜した。この細胞は培地ホウ素濃度が通常培地の1/100でも生育した。顕微鏡観察の結果,細胞壁は2倍程度の膨潤しており,ホウ素欠乏の初期症状とされる細胞壁の肥大が観察された。細胞壁のホウ素含有率は対照細胞の1/6まで低下していた。この細胞ではペクチン質多糖のホウ素による架橋は対照細胞の1/3しか形成されておらず,また,ホウ素による架橋が不十分であることが細胞壁の膨潤をもたらしていると推察された。細胞壁の膨潤はカルシウムイオンによるペクチン質多糖の架橋が不十分な場合に観察されるので,ホウ素がラムノガラクツロナンII領域で架橋しないことがカルシウムイオンのペクチン質多糖鎖への会合にも影響を与えることを示唆している。 本研究はホウ素の細胞壁ペクチン質多糖との相互作用を解明しようと開始されたがペクチン質多糖に対するホウ素の機能はカルシウムイオンの機能と分かち難く結びついていることが次第に明らかになってきた。
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