微生物由来糖脂質、マンノシルエリスリトールリピド(MEL)によるマウスメラノーマB16細胞のアポトーシス誘導と分化誘導機構及びラット副腎髄質褐色細胞由来PC12細胞の神経分化誘導機構について解析した。 プロテインキナーゼC(PKC)が細胞の分化およびアポトーシスに重要な役割を持つと言われているので、MEL処理した場合のPKC活性の変動を調べた。その結果、MEL処理によりB16細胞のPKC活性が減少した。さらに、PKC活性物質であるフォルボールエステルはMELによるアポトーシス誘導に対し拮抗作用を示した。また、MEL処理によりメラニン生産量とメラニン産生の鍵酵素であるチロシナーゼの活性が増加した。同時にPKCαの発現量も増加した。一方、MELの効果はPKCαに特異的なアンチセンスオリゴマーの添加により減少した。以上により、PKCαがMELによるB16細胞の分化誘導において重要な役割を果たしていることが推察された。 次に、MELによるPC12細胞の神経分化現象について検証した。MEL単独処理では、完全な神経細胞としてのneurofilamentおよびMAP-2を発現するまでに至っていないが、MELは突起伸展といった形態変化を誘導すること、NGFによるPC12細胞の神経分化誘導効果をMELが促進することを示した。MELのPC12細胞の分化誘導機構を明らかにするために、MELのシグナル伝達経路に関する解析を行った。その結果、NGFとは異なり、MELはMAPKファミリーであるJNKの活性及び原癌遺伝子c-fosの発現に影響を及ぼさなかった。以上により、PC12細胞に対するNGFとMELのシグナル伝達機構が異なっていることが明らかとなった。
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