紅色非硫黄細菌における有機化合物からの初発電子獲得系に関する知見は限られている。Rhodopseudomonas palustris No.7の細胞抽出液中に、NAD-非依存のD-およびL-乳酸脱水素酵素(LDH)とNAD-依存性のアルコール脱水素酵素が見いだされた。その中より、D-乳酸脱水素酵素(LDH)を電気泳動的に単一なまでに精製して、その酵素化学的諸性質を中心に検討した。ゲルろ過およびSDSポリアクリルアミド電気泳動法により、本酵素の分子量は235kDaで、サブユニットの分子量は57kDaと推定された。本酵素の等電点は5.0、活性の至適温度は50℃、至適pHは8.5、D-乳酸に対するKm値は0.8mMであった。本酵素の基質特異性は狭く、L-乳酸には活性を示さなかった。本酵素はシュウ酸により可逆的に阻害され、そのKi値は0.12mMであった。本酵素の補欠分子族は、FADであることを明かにした。これとは別に、シトクロムc_2(Cyt c_2)を精製し、電気泳的に単一な標品として得ることができた。本菌のCyt c_2はすでに得られている他の光合成細菌由来のものと比較して、等電点がアルカリ性側(9.4)にあった。分子量は12.4kDa算定された。D-LDHによる乳酸の酸化反応に伴ってCyt c_2の還元が観察された。以上の結果から、本菌においては、乳酸からの電子は、D-乳酸→D-LDH(FAD)→Cyt c_2→光化学系→NADへと流れて利用されるものと推定した。なお、L-LDHとADHについては、これらの酵素が不安定であることから精製することができなかった。ADHについては、部分精製標品を用いてその性質を検討した。ADHは、エタノール以上の直鎖アルコール(C_2〜C_7)に対して活性を示した。本酵素は、シアン化カリウムによって強く阻害され、0.1mMで60%阻害され、2mMで完全に活性を失った。
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