研究概要 |
下等真核微生物の中でも酵母は培養液中にはわずかしか蛋白質を分泌しないが、Aspergillus nidulansおよび近縁の麹菌(A.oryzae)などの糸状菌の多くは大量の蛋白質を分泌生産する。遺伝学的解析の進んでいる酵母の分泌装置を構成する蛋白質の中で、筆者らが1991年に報告したUso1pは780アミノ酸の頭部と約1000アミノ酸のcoiled-coil構造の尾部からなり、C末端に酸性アミノ酸のクラスターを有している。Uso1pは小胞体から出芽した輸送小胞がゴルジ体膜に係留される(tethering)段階に関与していることが報告されている。 筆者らは、A.nidulansのESTデータベースを検索して、Uso1pおよび動物細胞のホモログであるp115のC末端の酸性クラスター領域と相同性を有する配列を見出し、これを基にプライマーを設計してA.nidulansの染色体DNAからUSO1相同遺伝子を単離した。さらにA.nidulansのmRNAを調製して対応するcDNAをクローン化し、usoAと命名した本遺伝子の塩基配列の解析を行った。usoA遺伝子は5つのイントロンを有しており、予想されるUsoA蛋白質は1103アミノ酸からなり、N末端の約680アミノ酸の球状ドメインと、400アミノ酸のcoiled-coli領域及びC末端の20アミノ酸の酸性アミノ酸領域を有する、Uso1p/p115共通の構造を持つことを明らかにした。S.cereviaeのUso1pとは29%、bovine p115とは26%、S.pombeと29%、N.crassaと46%の相同性を有していた。頭部ドメイン中の2ヶ所の保存領域(HR1,HR2)は保存されており、coiled-coil領域の長さはp115とほぼ同様であった。糸状菌においてusoA遺伝子の発現を人為的に抑えることにより、細胞内蛋白質輸送機構を解析する新規のシステムを構築し成果をあげた。
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