研究概要 |
TNFによる細胞接着因子ICAM-1の発現を抑制する物質としてE-73(アセトキシシクロヘキシミド)を単離した。E-73は、蛋白合成阻害作用とは異なる機構によって、TNFによって誘導されるNF-κB核移行およびIκBαの分解を抑制した。E-73はTNFレセプターに会合するアダプター蛋白質TRADD,RIP,TRAF2の発現量には影響を与えなかった。一方、E-73処理細胞では顕著なp38MAPキナーゼおよびSAPK/JNKのリン酸化が観察された。また、p38MAPキナーゼの特異的阻害剤SB203580で前処理するとE-73によるIκBα分解阻害がうち消されることが認められた。以上の結果から、E-73によるNF-κB活性化阻害には、少なくともp38MAPキナーゼの活性化が関与していることが示唆された。 マイコトキシンの1つであるペニシリン酸はFasリガンドによる細胞死誘導を阻害した。ペニシリン酸はFasリガンドによるDISC複合体形成は阻害せず、DISC複合体に含まれるcaspase-8の自己限定分解を阻害した。一方、ペニシリン酸はスタウロスポリンによるミトコンドリア経路で誘導される細胞死も抑制することが明らかとなった。そこで、無細胞系におけるチトクロームC添加によるcaspase-9およびcaspase-3の活性化に対する影響を検討したところ、caspase-9の活性化は阻害したが、いったん活性化したcaspase-3には影響しなかった。以上の結果から、ペニシリン酸はcaspase-8、caspase-9のinitiator caspaseに選択的に作用し、その自己限定分解による活性化を抑制していることが示唆された。 FLIPはESTデータベースの相同性検索によって1997年にクローニングされた抗アポトーシス蛋白質である。FLIPはFADDやcaspase-8と結合し、death receptorを介して誘導されるcaspase-8の活性化およびそれに続くアポトーシス誘導を阻害する。ヒト末梢T細胞においては、抗CD3抗体で誘導される増殖反応がFasリガンドの添加によって増強され、転写因子NF-κBおよびAP-1活性化とともにFLIPのDISC複合体への会合が認められた。FLIPはアダプター蛋白質であるTRAF-1、TRAF-2、RIP、MAPKKKであるRaf-1と相互作用し、NF-κBおよびErk活性化を誘導した。T細胞においては、FLIPがT細胞レセプターの刺激と協調的に働き、NF-κBやErk活性化を増強し、IL-2産生が亢進することが明らかとなった。
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