A.nidulansにおけるタカアミラーゼA遺伝子(taaG2)の発現誘導は、強力な誘導物質イソマルトースの合成、イソマルトースから転写活性化配列SREに結合する核因子SREBへのシグナル伝達、SREBによる転写活性化の各段階を経由すると考えられる。このモデル経路に関して以下の研究成果を得た。 1.イソマルトース合成機構:A.nidulansはマルトースからイソマルトースを合成する酵素(IPE)を有していた。本酵素を精製し酵素学的性質を解明するとともに、内部部分アミノ酸配列をもとにIPE遺伝子を取得し塩基配列を決定した。IPEはα-グルコシダーゼの保存アミノ酸配列を有していたが、既知のいずれの酵素とも高い相同性は示さない新しいタイプのα-グルコシダーゼであった。 2.転写活性化因子AmyRのDNA結合特性:核因子SREBと同一と考えられるAmyRの遺伝子をA.nidulanから取得した。本遺伝子産物はN-末端にCys_6Zn(II)型のDNA結合モチーフを有していた。大腸菌で生産させた組換えAmyRは、taaG2やα-グルコシダーゼ遺伝子(agdA)のプロモーターに特異的に結合した。 agdAプロモーター上の結合配列はCGGN_8CGGであり、両端のCGGのいずれかを破壊するとAmyR結合親和性が大幅に低下した。一方、taaG2プロモーター上の結合配列CGGAAATTは、CGGを一つ欠いているにもかかわらず高い結合親和性を示した。 3.AmyRの機能ドメイン:様々なC-末欠損AmyRを作製し、DNA結合能及び転写活性化能を解析した。AmyRはN-末のDNA結合領域のみでDNAと結合可能であった。また、412番目のアミノ酸以降を欠損したAmyRは構成的な転写活性化を示すことから、C-末領域は転写活性化の抑制ドメインであることが明らかとなった。マルトース資化能を欠損したmalA1変異株はこの抑制ドメインに1アミノ酸置換を有していた。これは本変異点がシグナルの受容に重要である可能性を示唆している。 なお、本研究においては、比較のためセルラーゼ遺伝子eglAのプロモーター解析も行った。特定プロモーター領域の欠失により構成的な発現が観察され、本遺伝子の誘導発現が転写活性化因子ではなく転写抑制因子により支配されている可能性が示された。
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