枯草菌胞子形成時において、発芽時コルテックス分解の「key enzyme」であるSleBがいつどの部位で生合成され、休眠胞子内でどのような局在性を示すかについて、及びSleBの構造等と局在化との関連について解明を試みた。加えて、発芽時遊離は熱に対して抵抗性を持たないSleBの休眠胞子における耐熱性と酵素の局在性との関連について検討し、以下の1、2に示す成果を得た。さらに、C.perfringens胞子形成及び発芽時における発芽特異的酵素SleCのプロセシング過程について検討し、3に示す結果を得た。 1.B.cereus及び枯草菌SleBに対する抗体を用いて両菌休眠胞子の超薄切片の免疫染色を行い、SleBが胞子最外層のコート層とコルテックス層との間に存在することを示して本酵素が胞子表層の1成分であることを明らかにした。胞子の耐熱性は、これまで胞子内部の細胞質が高度に脱水化されていることに帰せられ、発芽時に作用する酵素群も細胞質内に存在して胞子表層の発芽に伴う分解は細胞内側から外に向かう過程と推察されてきた。しかしながら、本研究の結果はSleBによるコルテックス層の分解が胞子外縁から内側に向かって起きることを示唆し、発芽の分子過程や発芽酵素の耐熱性について従来の定説に再考を促すものとなった。 2.大腸菌-枯草菌間のシャトルベクター上でsleB遺伝子のプロモーター領域を含むSleBと蛍光蛋白質GFPの融合遺伝子を構築し、枯草菌に形質転換した。得られた形質転換株について胞子形成各期において蛍光顕微鏡下で観察することにより、SleBが胞子形成第III期にフォアスポア内部で生合成されることが明らかになった。また、N-末端ドメインにおける反復配列モチーフとコルテックスペプチドグリカンの相互作用がSleBの正常な局在化に重要な役割を果たすことを示した。 3.C.perfringens発芽酵素SleCが胞子形成時に4つのドメインを持つ前駆体として生合成され、N-末端プレ領域とC-末端プロ領域が切断されてN-末端プロ領域を持つ不活性型前駆体として休眠胞子の表層に局在化することを示した。また、胞子発芽時にSleC前駆体を活性化する特異的なプロテアーゼ(GSP)活性を見いだした。さらに、SleCのプレ領域とN-末端プロ領域または成熟体領域との相互作用が、胞子発芽時のGSPによる酵素の活性化に重要であることを明らかにした。
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