本研究はラクトバチルス属乳酸菌の菌体によって動物の腸管の免疫作用が増強されるかどうかを明らかにすることを目的として行った。即ち、ラクトバチルス属乳酸菌が腸管のリンパ組織に作用して分泌型IgAが誘導生産されるかを検討した。 先ず、腸管免疫の指標となる分泌性IgAの測定について、抗IgA抗体を用いたELISA法による定量法を確立した。次いで、MRS培地とRogosa培地を用いてヒト糞便からラクトバチルス属乳酸菌を単離した。本菌の同定を糖資化試験などによって試みたところ、Lactobacillus plantarumの一菌株と同定した。そこで、本菌を培養後、10^9cellを経口ゾンデにてBALB/cマウスに毎日投与し、一週間後に腸内容物を取り出してIgA濃度を測定した。その結果、生理的食塩水のみを与えたコントロールのマウスの腸内容物のIgA濃度に比べて著しく上昇していることを確認した。次に、本単離菌による免疫賦活をin vitro系によって調べた。マウスの小腸よりパイエル板組織を採取し、これを圧搾処理してパイエル板細胞を調製した後、本菌を超音波処理して得られた菌体破砕物を添加してインキュベートした。その結果、IgA量の著しい増加が見られ、本菌が菌体レベルだけでなく、菌体の破砕物によっても免疫賦活されることが示唆された。さらに、本菌を超音波処理し、遠心分離した後に調製した細胞壁画分をマウスに経口投与することによっても免疫賦活されることを確認した。また、本菌は腸管免疫系のみならず、全身免疫系をも活性化することをマウスへのコレラトキシンの投与実験によって確認した。
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