出芽酵母のNps1pはRSCと呼ばれる生育に必須なクロマチンリモデリング因子の活性サブユニットである。我々は、NPS1の温度感受性変異株解析により、Nps1pあるいはRSC複合体が、増殖に伴うセントロメア等の染色体の特定部位での染色体高次構造の形成・維持に働いている事、またこの複合体の細胞周期における作用時期がS期後期からG2期である事などを明らかにしてきた。本研究は、NPS1の温度感受性変異株を利用し、RSCの染色体分配装置の形成に果す役割を解析する事を目的としている。本年度の研究では、RSCの機能調節に関わる因子の同定を目的として、nps1変異を遺伝子量の増加によって抑圧する多コピーサプレッサー遺伝子(HSN遺伝子)の取得と解析を行った。この結果、NPS1自身を含む9種の遺伝子を取得し、これらの内4種がPKC1(プロテインキナーゼCのホモログをコード)と、この活性化に働くものであることを明らかにした。PKC1は、酵母においてMAPキナーゼ経路の活性化を通じ、細胞壁形成を制御することが知られている。NPS1とPKC1の機能的関連を詳細に解析した結果、PKC1によるnps1変異の抑圧は、上述の経路とは異なる新しい経路、あるいは下流の因子の活性化によるものであることを明らかにした。HSN遺伝子の機能的関連をさらに詳細に解析した結果、PKC1は微小管結合因子BIM1を活性化することを見いだした。Bim1蛋白はヒトの大腸癌の抑制因子、APC蛋白に結合するEB1のホモログで、真核細胞に普遍的に存在し、細胞増殖に重要な機能を果たしている。このことからPKC1が微小管の機能を制御する可能性が考えられたため、温度感受性のpkc1変異株を用いて詳細な解析を行った結果、この変異株は微小管機能に欠損を持つ変異株と同様の表現型を示すこと、準許容温度での培養で細胞周期のG2期遅延を起こすこと、この遅延はスピンドル微小管のアッセンブリーの遅れによるものであることを明らかにした。
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