研究概要 |
昆虫フェロモン,海洋天然物,哺乳類の乳中などに見い出されるアルキル側鎖の分岐による不斉の絶対配置の決定は非常に困難であり,高感度な一般的分析法はなかった。本研究では,HPLCにより高感度でアルキル側鎖中の分岐不斉を識別するための新しい試薬として2ACyclo-OHを設計・合成し,本法の展望と限界を明かとすると共に,絶対配置が不明な天然化合物の絶対配置決定への応用展開を行った。2〜26位に分岐メチル基を持つアンテイソ酸(ω-3位に分岐不斉を有する脂肪酸)の光学活性標品を合成し,試薬とのエステル誘導体化を行った後,逆相HPLCによる不斉識別能の評価を行った。その結果,2〜17位に分岐を有するアンテイソ酸は,ODSカラムを用い低温で分離を行うことによりそれぞれのジアステレオマー体を分離度0.7以上で分離することができた。一方,アルキル鎖長の長い脂肪酸の不斉識別にはC-30カラムを用いることにより,ODSカラムでは十分な分離が得られなかった15-18位分岐不斉を良好に識別することができた。また,それより遠隔位の脂肪酸も識別可能で,25及び26位に分岐を有する脂肪酸でもカラムを連結することにより不斉識別が実現できた。本分析法の天然物への展開として、渦鞭毛藻の産生するセラミド中の新規分岐脂肪酸の15位の分岐不斉をRと決定した。また新規グリセロ糖脂質S365Aに含まれる絶対配置未決定の12-メチルテトラデカン酸及び14-メチルヘキサデカン酸の絶対配置を,いずれもSと決定した。さらに,新たな実用性評価への展開として、アルキル鎖中に不斉シクロプロパン環を有する免疫抑制活性を有する海洋性スフィンゴ糖脂質Plakoside Aのシクロプロパン環の絶対構造を決定することができた。
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