研究概要 |
昨年度まで、PC12細胞(ラット副腎髄質褐色細胞)の、NGFにより誘起される神経突起伸展を阻害する物質として、一放線菌Streptomyces sp.の培養液から、indocarbazostatin(1)と命名した新規化合物を単離構造決定した。本物質はカルモジュリン阻害剤として注目を集めていたK-252a(2)と類似したインドカルバゾール系抗生物質であり、PC12細胞に対する神経突起伸展阻害活性の最小有効濃度は、K-252aの約33倍(6nM)という値をしめした。 本年度は、化合物1の類縁体である新規物質indocarbazostatin B(3)の単離構造決定に成功した。本物質のPC12細胞に対する神経突起伸展阻害活性の最小有効濃度は24nMであった。化合物1及び3のPC12細胞に対する細胞毒性をMTT法及びCalcein-AM法を用いて比較したところ、K252aが最小有効濃度の3倍で毒性を示すのに対し、1は最小有効濃度の9倍においても顕著な細胞毒性を示さなかった。また、ラット脳由来のプロテインキナーゼC(PKC)に対するIC50は1:2.0nM,3:8,5nM,K-252a:35nMであった。 K-252aは、細胞内のTrkをはじめとするプロテインキナーゼ類を阻害することで、PC12細胞の分化誘導を阻害することが知られている。分化誘導と細胞毒性並びにPKC阻害活性の差は、細胞膜透過性の違い、あるいはプロテインキナーゼ群、特に分化誘導に関与するキナーゼに対する特異性の違いを反映していると考えられ、indocarbazostatin類の生物学的性質をより詳細に検討する必要がある。現在、これらの化合物の生産性の向上を目指して、生産菌の育種を行っている。
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