筆者らはこれまでに各種の外科手術ラットならびに小腸上皮細胞モデルCaco-2を用いた解析により、小腸におけるアポリポタンパク(アポ)A-IV遺伝子の発現が管腔因子(胆汁成分)および体液性因子(消化管ホルモンpeptide YY)による調節を受けることを示唆する知見を得た。本研究では神経性因子が小腸アポA-IV遺伝子発現の調節に関与する可能性について検討した。 無麻酔・非拘束条件下のラットに頚静脈カテーテルを介して神経節遮断剤ヘキサメトニウム(Hex)を注入した後、小腸粘膜RNAをノーザン分析した結果、アポA-IV mRNAレベルは空腸においては変化しなかったが、回腸においては有意に低下した。Hexによる回腸アポA-IV mRNAの低下は胆汁を体外に排出する手術を施した動物においても観察されたので、Hexの効果は回腸に到達する胆汁成分が減少したことによるものではないと推測された。アトロピン(コリン作動性神経拮抗剤)及びL-NAME(NOS阻害剤)の静脈注入も回腸アポA-IV mRNAレベルを低下させたが、プロプラノロール(β-アドレナリン作動性神経拮抗剤)、ドパミン作動性神経拮抗剤、セロトニン作動性神経拮抗剤、アデノシン作動性神経拮抗剤、及びATP作動性神経拮抗剤は影響を及ぼさなかった。また、回腸カテーテルを介して脂質エマルジョンを注入すると回腸アポA-IVmRNAレベルが増加したが、Hexはそれを抑制しなかった。更に、近位小腸の広範囲切除後に残存回腸のアポA-IVmRNAレベルが増加したが、Hexはそれを抑制しなかった。以上の結果は、ラット回腸におけるアポA-IV遺伝子の基礎的な発現は少なくとも一個の神経節を有するコリン作動性神経及びNO作動性神経の支配を受け、食餌脂質による刺激や小腸切除後の適応におけるアポA-IV遺伝子発現の増加には神経系は関与しないことを示唆している。
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