筆者らは、各種の外科手術ラットならびに小腸上皮細胞モデルCaco-2を用いた過去の解析により、小腸におけるアポリポタンパク(アポ)A-IV遺伝子の発現が管腔因子(胆汁成分)及び体液性因子(消化管ホルモンpeptide YY)による調節を受けることを示唆する知見を得ている。更に本研究の初年度(平成11年度)においては、各種の神経伝達ブロッカーをラットに投与する実験を行い、ラット回腸におけるアポA-IV遺伝子の基礎的な発現は少なくとも一個の神経節を有するコリン作動性神経及びNO作動性神経の支配を受けること、食餌脂質による刺激や小腸切除後の適応におけるアポA-IV遺伝子発現の増加には神経系は関与しないことを示唆する知見を得た。そこで今年度は、小腸上皮細胞のモデル系としてヒト結腸ガン由来細胞株Caco-2を用いて、さまざまな消化管ホルモンならびに神経ペプチドがアポA-IV遺伝子の発現に及ぼす影響を解析し、小腸アポA-IV遺伝子発現の神経内分泌制御に関する新規の情報を得ようとした。 定法により培養したサブコンフルエントのCaco-2細胞を6穴トランスウェルに播種し、コンフルエントに達してから14日後に10^<-10>〜10^<-5>Mの各種の消化管ホルモンあるいは神経ペプチドの存在下で更に6時間培養した後、RNAを分離して半定量的RT-PCRにより遺伝子発現レベルを解析した。その結果、VIP、ボンベシン、及びサブスタンスPはそれぞれ10^<-8>、10^<-6>、及び10^<-5>MでアポA-IVmRNAレベルを著しく増加させ、またソマトスタチン28は濃度依存的に減少させた。アドレナリン、カルバコール、グルカゴン、GRP NPY、CGRP、GLP、及びMet-エンケファリンはアポA-IV mRNAレベルに影響を及ぼさなかった。また、アポA-ImRNAレベルは、調べたいかなる物質によっても変化しなかった。以上の結果から、小腸上皮細胞におけるアポA-IV遺伝子の発現は、さまざまな消化管ホルモンならびに神経ペプチドが複雑に関与する神経・内分泌系による調節を受けることが示唆された。
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