筆者らのこれまでの研究により、小腸におけるアポリポタンパク(アポ)A-IV遺伝子の発現が管腔因子(胆汁成分)及び体液性因子(消化管ホルモンPYY)による調節を受けることが示唆されている。本研究では、アポA-IV遺伝子の発現調節に関わる神経性因子について検討するとともに、内分泌因子について更に広範に検索した。各種の神経伝達ブロッカーをラットに投与する実験を行い、神経節遮断薬、コリン作動性神経拮抗薬、及びNO合成酵素阻害薬が回腸アポA-IV mRNAレベルを低下させたことから、回腸におけるアポA-IV遺伝子の基礎的な発現は少なくとも一個の神経節を有するコリン作動性神経及びNO作動性神経の支配を受けることが示唆された。また、β-アドレナリン作動性神経拮抗薬、ドパミン作動性神経拮抗薬、セロトニン作動性神経拮抗薬、アデノシン作動性神経拮抗薬、及びATP作動性神経拮抗薬は影響を及ぼさなかった。更に、食餌脂質や小腸切除後の適応における回腸アポA-IV遺伝子発現の増加に神経節遮断薬が影響を及ぼさなかったことから、これらに神経系は関与しないと考えられた。小腸上皮細胞のモデル系としてヒト結腸ガン由来細胞株Caco-2を用いて、さまざまな消化管ホルモンならびに神経ペプチドがアポA-IV遺伝子の発現に及ぼす影響を解析した結果、PYYは濃度及び時間依存的にアポA-IV mRNAレベルを増加させ、またVIP、ボンベシン、及びサブスタンスPもある一定濃度において増加させた。逆にソマトスタチン28は濃度依存的にアポA-IV mRNAを減少させた。アドレナリン、カルバコール、グルカゴン、GRP、NPY、CGRP、GLP、及びMet-エンケファリンはアポA-IV mRNAレベルに影響を及ぼさなかった。以上の結果から、小腸上皮細胞におけるアポA-IV遺伝子の発現は、さまざまな消化管ホルモンならびに神経ペプチドが複雑に関与する神経・内分泌系による調節を受けることが示唆された。
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