研究概要 |
物質の電気物性を測定する際に測定周波数の増加に伴い、誘電率ε'の低下、電気伝導度σ'の増大、誘電損失ε"(=σ'/2πfe_0;e_0,真空の誘電率)のピークが観測されるが、その現象を誘電緩和と呼ぶ。誘電緩和法は分散系の内部構造を把握するのに有効である。本研究では、近年、食品科学において着目されているガラス転移に関して、誘電緩和法の適用を試みた。 試料としては主にゼラチンを用い、5〜10wt%溶液を60〜80℃の恒温槽で1日から数日乾燥させガラス状もしくはラバー状試料を得た。電気物性測定は、平行円盤型電極を用い、温度領域-20〜30℃、周波数領域20〜500kHzにおいて行い、試料のε'およびε"を算出した。また、ガラス転移点T_gの決定のためのDSC測定は50〜200℃の温度領域において昇温速度10℃/minで行った。 低含水率のゼラチンについてはガラス領域においてε"の極大すなわち誘電緩和が観測された。ε"の極大値を与える周波数から電気双極子の配向時間に相当する緩和時間τが、τのArrhenius plotから活性化エネルギーE_<act>が算出された。算出されたE_<act>の値から、観測された緩和はガラス状態においても凍結されない分子の局所的運動に基づくβ緩和であると考えられた。高含水率である程τやE_<act>の値は減少しており、このことから、τやE_<act>の値により水の可塑化効果を評価しうることが示された。 一方、ラバー状態の試料については、周波数の低下に伴いε"は急激に増大し極大値は観測されなかった。これは、直流電導度のためε"のピークがマスクされたためと考えられた。そこで複素誘電率ε^*(=ε'-iε";i,虚数単位)の逆数である電気弾性率M^*を用いた解析を行った。その結果、M^*の虚部M"のピークすなわち電気弾性率に関する緩和が観測され、定量的解析が可能となった。
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