研究概要 |
加熱食品に含まれるトリプトファン由来の発ガン物質Trp-P-1は、ラット肝実質細胞に対しアポトーシスを誘導する。本研究課題ではその誘導機構を解明することを目標にしている。平成12年度は以下に示す成果を得た。 1.Trp-P-1(30μM)を灌流した肝臓からアポトーシスのバイオマーカーであるcaspasesの活性化とその細胞内基質であるpoly(ADP-ribose)polymeraseの開裂を検出した。この肝臓において、c-Mycとp53タンパク質の一過的な増加とNF-κBとAP-1のDNA結合活性の増加を検出し、これらがTrp-P-1によるアポトーシスに関与していることを示唆した。(Biosci.Biotech.Biochem.,69(9),2021-2024,2000.) 2.Trp-P-1は肝細胞のみならず、初代培養したラット脾細胞と胸腺細胞に対してもアポトーシスを誘導することを明らかにした。さらに、両細胞はcaspase cascadeの下流において異なるendonucleaseを活性化させるが胸腺細胞ではDNA断片化を伴わないことから、両細胞のアポトーシス誘導機構が異なることを明らかにした。(Mutat.Res.,457,57-67,2000.) 3.ラット肝実質細胞に対するアポトーシス誘導機構を明らかにした。ラットP4501A1を発現した酵母のミクロソームで代謝活性化させたTrp-P-1は肝細胞にアポトーシスを誘導せず、発ガンとアポトーシスは異なる機構であることが判った。Trp-P-1の肝実質細胞に対するアポトーシス誘導経路は、c-Mycとp53依存的であり、ミトコンドリアからのcytochrome cの漏出によるcaspase-9の活性化とその下流でのcaspase-3と-7の活性化、caspasesの細胞内基質であるpoly(ADP-ribose)polymeraseの開裂、DNAを切断するNuc18-like endonucleaseの活性化をたどることを明らかにした。(Carcinogenesis,2001,in press.)
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