研究概要 |
加熱食品に含まれるトリプトファン由来の発ガン物質Trp-P-1は、ラット肝実質細胞に対しアポトーシスを誘導する。本研究課題ではその誘導機構を解明することを目標にしている。平成13年度は、アポトーシスと発がんとの関係について、以下に示す成果を得た。 1.Trp-P-1は、ラット血液ならびにヒト末梢血から単離した単核球に対して、カスパーゼ8が最上流で活性化するカスパーゼカスケードを介してアポトーシスを誘導することを示した。また、アポトーシス誘導には、活性酸素量の増加が関与している可能性を示唆した。(Biochim. Biophys. Acta,1539,44-57,2001) 2.Trp-P-1の肝細胞に対するアポトーシスは、非実質細胞が存在すると促進されることを明らかにした。非実質細胞と実質細胞の混合培養系では、カスパーゼ8が支配する情報伝達経路が主に働き、それとともにカスパーゼ9によるミトコンドリア損傷を伴った経路も遅れて活性化することを示した。さらにTrp-P-1は、アポトーシス誘導や発ガンに関与する転写因子、AP-1とNF-κBのDNA結合活性を増加させることも明らかにした。(Toxicol. Appl. Pharmacol.177(1),59-67,2001) 3.アポトーシスの制御に関わるタンパク質の一つであるBcl-xLは、肝がん誘発モデルラットの前癌病変部位に増加が認められ、肝臓では発がんとアポトーシスが組織学上同じ部位で認められることを明らかにした。(Jpn. J. Cancer Res.,92(12),1270-1277,2001) 4.化学発がん物質であり、チトクロームP4501Aサブファミリーを誘導するメチルコランスレンを投与したラットから分離した肝実質細胞に対してTrp-P-1はアポトーシスを誘導しないことを示した。このことから、Trp-P-1は代謝活性化されると発がんに関与し、活性化されない場合にはアポトーシスを誘導すると推察した。(Biosci. Biotech. Biochem.,65(2),356-362,2002)
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