加熱食品に含まれるトリプトファン由来の発ガン物質Trp-P-1のアポトーシス誘導機構の解明について研究を行った。本研究により、Trp-P-1はラット初代培養肝細胞に対してカスパーゼ依存的なアポトーシスを誘導することが明らかとなった。肝実質細胞の場合、Trp-P-1は、p53とc-Mycの発現を上昇させた後、ミトコンドリアにおけるBaxの集積とチトクロムcの漏出を促し、カスパーゼ9を起点としたカスケードの活性化から、Nuc-18様エンドヌクレアーゼが活性化してDNAを断片化させることが判った。しかし、肝臓に存在する非実質細胞が混在する生体内に近い実験系では、はじめにカスパーゼ8が活性化し、それがBidを開裂させるためにミトコンドリアからチトクロムcが漏出し、結果としてカスパーゼ9、3、6、7が活性化するシグナル伝達経路をたどることを明らかにした。免疫系組織由来の細胞に対しても、Trp-P-1はカスパーゼ依存的なアポトーシスを誘導することが判った。胸腺ではアポトーシス過程でDNAの断片化が認められず、脾臓の場合とでは異なる作用機構が働くことが判った。また、ラットとヒトの血液から分離した単核球に対しても、Trp-P-1は、カスパーゼ8を起点としたカスケードの活性化を伴うアポトーシスを誘導し、1nMの低濃度でもDNAを断片化させることを明らかにした。さらに、これらの細胞へのTrp-P-1の取り込み経路について検討したところ、Trp-P-1はモノアミントランスポーターを介して細胞内に取り込まれ、アポトーシスを誘導することを明らかにした。アポトーシスと発ガンとの関係について検討したところ、Trp-P-1の場合、発ガンに関与する薬物代謝系酵素による代謝活性化は、アポトーシスに関係しないことが判明した。また、発ガンとアポトーシスの両方に関与する転写因子の挙動変化が起こることも明らかにした。しかし、アポトーシスにおける活性酸素やDNA損傷の関与、転写因子の挙動変化の原因については、さらなる検討が必要である。
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