研究概要 |
唐辛子の辛み成分カプサイシンの投与により、副腎髄質からのアドレナリン分泌や酸素消費量が増加する。また、カプサイシンを含むえさを長期摂取すると白色脂肪組織量が減少する。これらの事はカプサイシンを含む食品にエネルギー代謝亢進を起こして、抗肥満作用があることを示唆している。食事誘導性熱産生(diet-induced thermogenesis, DIT)機構の役割になる候補としてカプサイシンのエネルギー代謝に影響する熱産生器官やホルモンを検討した。神経ペプチドのカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide, CGRP)はVMHを含めた中枢神経系内に多く散在しており、CGRPを中枢に作用させると食欲抑制がおこる。したがって、エネルギー調節機構に中枢内のCGRPが含まれている可能性がある。そこで、DITの中枢性調節にかかわる神経ペプチドの重要性について、CGRPの中枢内投与による熱産生に及ぼす効果、さらにこの熱産生の抹消機構を検討した。 カプサイシンの投与により、熱放散と熱産生が同時に促進し、さらに一部褐色脂肪組織温度が増加したことは、カプサイシンがエネルギー消費に対してかなり効果があることを示唆しており、肥満の防御や治療に重要な役割を果たす可能性がある。しかしながら、大量のカプサイシン投与により感覚神経機能が消失するため、カプサイシンの神経毒的な作用があることなどから、カプサイシンの抗肥満作用については慎重な検討が必要であると思われる。 CGRPの脳内投与は熱産生が促進し、この効果がVMHに特異的であった。さらにCGRPのVMH内投与による熱産生は交感神経活動亢進を介した褐色脂肪組織でおきた。この熱産生効果と一致して、DITは交感神経系を介して褐色脂肪組織でおこり、この中枢性調節にVMHが含まれている。また、CGRP含有神経終末がVMHに存在することから、これらの神経が中枢内で食事情報を伝達し、DITの中枢性調節に含まれることが推測される。 自律神経系やホルモンを介した熱産生器官、そして感覚情報の受容や伝達に関与する中枢との相互作用によって、DITの機能が発揮されているが、この調節機構の一部にカプサイシンやCGRPが含まれる可能性がある。
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