本年度は、典型的なシステインプロテアーゼ阻害タンパク質であるシスタチンを中心に研究を進めた。化学的多糖修飾は、65℃、相対湿度79%でメイラード反応を起こさせることによって行なった。また、遺伝子工学的多糖修飾は、Pichia pastorisをホストに用いた酵母発現系によって行なった。得られた多糖修飾シスタチンは、非修飾タンパク質に比べ、ネズミチフス菌に対しての強い抗侵襲性効果を示した。また、シスタチンは多糖修飾によって、ロタウィルスに対する抗ウィルス効果も著しく上昇させることが明らかにされた。加えて、シスタチンの構造安定性は、いずれの多糖修飾法によっても著しく上昇することが明らかにされた。多糖修飾は、シスタチンのキモトリプシンに対する感受性を著しく低下させ、分解性は10%以下となった。耐熱性もまた、多糖修飾によって著しく強化され、1%のタンパク質溶液を95℃に加熱しても凝集が起こらなかった。これらの多糖修飾シスタチンについては、変異原性試験とラットに対する亜急性毒性試験に基づいて、すでに食品衛生学的な安全性が確認されているので、安全な食品素材として応用することの可能性が示唆された。そこで、遺伝子工学的手法によって調製された多糖修飾シスタチンを10μg/gの濃度で子持ちニシンから調製されたスリミに加えたところ、40℃30分の予備加熱を含む90℃20分の加熱加工によってより食感の高いかまぼこゲルを調製することに成功した。また、この多糖修飾シスタチン含有かまぼこゲルは、室温保存で悪臭発生までに5日(コントロール区は2日)を要し、日保ちが向上していることも明らかにされた。以上のように、多糖修飾シスタチンは、直接的な製品の品質改良だけでなく、製品化後の品質保持の目的でも有効であることが明らかにされた。
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