研究概要 |
本研究では、カンバ類の癌腫病菌であるカバノアナタケの感染によって、シラカンバ幼植物体内に生成する抗菌性化合物を検出・同定することを目的とした。先ず、無菌シラカンバ幼植物体No.8を大量に増殖・培養し、これにカバノアナタケIO-U1株及びIO-B2株を接種(TREATMENT)し、無傷で無菌(CONTROL(1))及び傷を付けた幼植物体(CONTROL(2))との間で、生長量を比較した。その結果、菌の感染がシラカンバ幼植物体の生長、特に主根の成長を阻害することが判明した。次に、CONTROL(1),(2)及びTREATMENTの幼植物体を有機溶媒で抽出し、抽出物をガスクロマトグラフ-質量分析計で分析して各抽出成分の比較を行った。その結果、ファイトアレキシンに相当する化合物は検出されなかったが、ファイトアンチシピンであると示唆された化合物が1つ検出された。また、以前にファイトアンチシピンであると示唆されたβ-シトステロールの定量も行った。その結果、遊離型のものは傷害によって増加し、逆に菌の感染によって減少した。一方、エステル型のものは、傷害及び菌の感染によって増加した。これらの結果から、β-シトステロールが前駆体のような役割を持ち、これが別のファイトアンチシピンに変換されることが推察された。3つ目の実験として、β-シトステロールの抗菌活性試験を、液体培地及び寒天培地を用いて行った。その結果、β-シトステロールの濃度が100μg/mLの時に、最も顕著な抗菌活性が観察された。従って、β-シトステロールが、ある程度ファイトアンチシピンとして作用していることが判明した。4つ目の実験として、感染・非感染幼植物体からそれぞれ粗酵素液を調製し、これを二次元電気泳動にかけてプロテオーム解析を行った。その結果、全ての処理区においてpH3〜7、分子量が100kDa以下の範囲で、多くのタンパク質スポットが出現した。また、菌感染1日目において、TREATMENTで9個のスポットが消失又は薄くなり、4個のスポットが濃くなり、更に1個のスボットが新たに出現した。一方、6日目において、TREATMENTで6個のスポットが消失又は薄くなり、2個のスポットが濃くなった。これらの各タンパク質が、菌の感染によるシラカンバ幼植物体内での代謝の変化に関係していると考えられる。
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