事例対象地の現況調査については、ほぼ実施計画通り、「原始の森」復元試験地内大面積固定試験地の一部拡張・毎木調査(20m×40m)、「生産の森」の標準地調査(ヒノキ造林地5箇所、スギ造林地3箇所)、天然生広葉樹二次林調査区2箇所、コウヨウザン人工林などの調査、引佐演習林の固定試験地の継続調査(予定の11箇所中9箇所を終了)、稀少植物を含む生物多様性保全を目的とした新規プロット(20m×100m)の設定調査を終了した。さらに上阿多古演習林では、全域を対象とした大径木調査、マツ人工林調査等も行い、全林の現況把握のための現地調査をほぼ終了し、データを取りまとめた。その結果、森林景観全林を「生産の森」、「原始の森」および「情報の森」の3つの林種に区分し管理していくことを基本とする森林景観管理計画案の妥当性がある程度まで確かめられた。また、基礎理論構築のための樹形調査については、今年度は高木類13種30個体を対象にした調査を終了し、生活形の面からみた森林景観の2大構成要素である高木性広葉樹類と常緑針葉樹類の樹形形成・生活戦略上の相違について、コスト・ベネフィットの観点から検討を加えた。その結果、t年目までの樹体を構成するすべての枝条の累積形成量(伸長量)をf(t)とすると、高木性広葉樹の場合は、針葉樹と同様にf(t)=Lt^rで表せるが、rが針葉樹より小さく、平均で2.4程度であること、広葉樹の場合は、針葉樹と異なり、短い枝条ほど、単位長さ当たりの葉量が多くなるが、平均枝条長は掲示時間の経過ととも平均枝条長が短くなる傾向があるため、競合的な条件下で、針葉樹よりもはるかに光合成効率が高い樹形形成を行っているらしいことなどが判った。森林景観に出入りする動物相の観測・分析については、残念ながら、今年度も主だった成果は挙げられなかった。
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