事例対象地の現況調査については、計画通り、上阿多古フイールド「原始の森」復元試験地内の未同定樹種の同定、当該フィールド全域の樹種別最大直径木の探査を終了したほか、天然生広葉樹二次林試験地(0.79ha)の未調査区域全域(約0.4ha)の毎木調査、里山景観型ビオトープ造成試験地(0.04ha)などの調査も終了した。その結果、当初予定していた当該フィールドの森林景観全域の概況把握が可能となり、旧来型の森林簿が更新できたほか、全域の種数が自生種のみで101種、小班毎の多様度指数H'が0〜5.75、全体のそれが1.7であることなどがわかった。引佐フィールドについても、固定調査区2箇所の毎木調査は実行できなかったが、その他については、計画通り、マツ枯れ調査、稀少植物保護区調査を実行したほか、モミ人工林調査なども行なった結果、全域把握が可能となった。高木類の樹形形成研究、同化器官・非同化器官量の解析についても、ほぼ計画どおり終了し、結果を参考にして、森林景観に関与する生物の生活戦略を2類型に区分する理論の妥当性のコストベネフィット分析による検証を試みた。その結果、広葉樹型樹形を示すものの戦略が、定量的にも競合的とみなせる可能性が高いことなどがわかった。枝条構造・枝条形成パタン、フェノロジー調査、ビデオカメラによる森林景観に出入りする動物相の分析も遂行したが、今年度は特に大きな成果は得られなかった。以上の結果を参考にして、次世代のあるべき里山域における森林景観の基礎理論の構築を行なうとともに、導いた基礎理論に従った、「生産の森」、「原始の森」および「情報の森」を整備指針とする事例研究対象地の整備計画案を作成し、暖温帯里山域を整備するにあたっての基本指針につき総合考察を加えた。
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