研究概要 |
足尾山地東部の山地小流域において基盤岩の降雨流出に及ぼす影響を把握するために,水文観測を行い,また同時に,谷密度の違いをもたらした水文地形学的要因について検討した.調査流域は,砂岩・頁岩互層の流域,およびチャートの流域である。砂岩・頁岩流域は1-4mの厚さの土層に覆われており,その谷頭部には大きな湧水がある.チャート流域では全体の20%の面積で基盤岩が露出し,間欠水流が見られる.水文観測の結果は,2つの流域での流出経路の違いを示した.砂岩・頁岩流域では,基盤岩への深部浸透と地下水流が卓越するのに対して,チャート流域では土層内の側方流が卓越した.チャート地域では1つの大きな降雨に伴い大規模な掃流土砂流出が発生したのに対して,砂岩・頁岩流域では,湧水付近で活発なseepage erosionが観測された.以上のような流出経路と地形形成プロセスの違いが,谷密度の違いをもたらしている可能性がある. これと同様の水文観測を日光市付近の流紋岩山地においても行った。流域面積は,1-5haの3つの流域である。水文観測の結果,日光の流紋岩流域における降雨ピークに対する流量ピークの遅れ時間は,それぞれ1.2時間,0.7時間であり,降雨の累積により流出量が著しく増加していった。これらの結果を従来の知見と比較すると,この遅れ時間は,花崗岩地域よりは早く,中古生層地域よりは遅いように思われる.遅れ時間の差異は,基盤岩中を経由する地中水の,流出に対する寄与の大きさによるものと考えられる.
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