石油などの化石資源の枯渇が深刻となるとともに地球温暖化、酸性雨などの地球規模での環境問題が取り沙汰されるようになり、再生産可能な植物バイオマス資源の燃料あるいはケミカルスとしての利用は益々注目されてきている。このためには、高分子で固体である植物バイオマス成分を選択的に低分子化さらには特定の低分子ケミカルスへと変換することが求められるが、現時点では満足のいく手法は見出されてはいない。本研究では、効率的な分解を特徴とする熱分解法に着目し、その最大の欠点である生成物の低選択性を飛躍的に向上させる新たな方法を提案することを目的に、植物バイオマス成分の熱分解機構の解明を進めた結果、以下の点が明らかになった。 (1)セルロース、ヘミセルロースなどの多糖類は、加熱により容易にその繰り返し単位サイズの無水糖に変換され、その重合反応が炭(固体)を与える重要な反応であることが明らかになった。また、無水糖の安定性が炭を与えるか低分子化生成物を与えるかにおいて重要であることも示唆された。さらに、応用的な側面としては、無水糖を可溶化する溶媒中で熱分解することで、炭の生成が抑制され、選択的に低分子化されることも明らかになった。 (2)リグニンは、フェニルプロパン誘導体が多くの結合様式で結合した無定形高分子であるが、これらの構造を代表する7種類の2量体モデル化合物の反応性を、低分子化、高分子化、炭化、ガス化の4種の反応に対して相互に比較して調べ、各構造のこれらの反応に対する相対的な反応性を明らかにした。また、フェノール性β-O-4構造が開裂する時点で著しいリグニン分子の低分子化が進行することが明らかになった。 (3)リグニンの低分子化の鍵を握るフェノール性β-O-4構造の開裂機構を、側鎖水酸基を特異的にデオキシ化した一連のモデル化合物を用いて調べた結果、従来提案されてきているいくつかの機構では得られた結果を説明することはできず、新たな機構の提案を行った。
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