研究概要 |
環形動物スピオ科に属する多毛類Polydoridsは、さまざまな石灰基質に穿孔する種と、岩盤のすきま、砂泥底等に生息する穿孔しない種がいる。穿孔するかしないかということは、穿孔という一つの能力をもつかもたないかによりただ単に生息タイプが異なるのみならず、進化の方向をも示唆する大きな特性であることが考察されている。本研究は、有用貝類に穿孔することにより防除・駆除の対象となるスピオ科多毛類の生物学的特性を明らかにし、包括的に「穿孔」という特性を捉え、その穿孔機構の解明を目指すものである。 今回、「穿孔開始」との関連が強く示唆されている第5剛毛節の球状物質について、穿孔種3種(Polydora brevipalpa,P.curiosa,Polydora sp.)と非穿孔種2種(Polydora cornuta,Boccardia proboscidea)の定着・変態期前後の幼生、穿孔開始前後の幼若個体を採集・飼育し、その有無、大きさと消長を調べた。その結果、穿孔する種はすべて第5剛毛節に球状物質が出現する一方、穿孔しない種には球状物質は出現しなかった。また、球状物質と幼生の浮遊期の有無との関連を調べた結果、球状物質を有する3種のうち浮遊幼生期の存在するのは2種で、また、球状物質を有しない2種のうち浮遊期が存在するのは1種であることがわかった。このことから、球状物質は浮遊幼生が基質に定着するために直接関係のある物質ではないことが推察された。球状物質の消長については、球状物質の存在する3種すべてにおいて、貝殻定着前の後期幼生から出現し、定着して穿孔開始まで存在していた。穿孔後は次第に大きさが小さくなった。
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