環形動物スピオ科に属する多毛類は、さまざまな石灰基質に穿孔する種がいる。本研究は、有用貝類に穿孔することにより防除・駆除の対象となるスピオ科多毛類について、包括的に「穿孔」という特性を捉え、穿孔機構の解明を目指すものである。 スピオ科多毛類の石灰基質穿孔機構に関連していると推察される第5剛毛節の球状物質について解析を行った。その結果、穿孔する種はすべて第5剛毛節に球状物質が出現した。また、球状物質と幼生の浮遊期の有無との関連を調べた結果、球状物質は浮遊幼生が基質に定着するために関係する物質ではないことが推察された。球状物質は、貝殻定着前の後期幼生から出現し、定着して穿孔開始まで存在していた。また、特定の時期にのみ出現する球状物質は、各体節にある粘液腺とは組織化学的には異なることがわかった。スピオ科多毛類の石灰基質穿孔機構について解析を行った。生体の観察と走査型電子顕微鏡を用いた観察の結果より、多毛類の体全体から分泌される物質によって最初に貝殻の有機成分の結合が弱まり、腹足肢剛毛や第5剛毛節剛毛による物理的な磨耗が加わり、孔道全体の伸長と拡大が進むと推察された。多毛類は孔道の伸長方向に対し、上下運動と回転運動の両方を行って穿孔していることが推察された。多毛類の体全体から出る物質は、酸であることが示唆された。スピオ科多毛類の第五剛毛節は進化において重要な意味を持ち、進化の方向としては、第五剛毛節が変形し穿孔を有する方向に向かったと考えられた。
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