研究概要 |
環境収容力の評価に基づいて、適正な貝類養殖規模を策定するための第一段階として、岩手県大槌湾において養殖されているホタテ、カキおよび動物プランクトンの摂餌動態に関する実験的解析を平成11年5〜6月に行った。養殖貝類の摂餌による植物プランクトン色素の分解過程に重点を置いた。珪藻類,渦鞭毛藻類,ハプト藻類,クリプト藻類の培養株を,カキ・ホタテに餌料として与え,排出された糞を集めてHPLC分析を行った。貝類の糞からは,一般の植物プランクトンに含まれない多数の色素が検出された。クロロフィル類の分解物の中では,主にピロフェオフォルバイドaが卓越し,他に,植物カロテノイドの分解物,代謝産物と思われる可視吸光スぺクトルを持つ色素類が検出された。その中で主要なものは,珪藻類に多量に含まれる植物色素(フコキサンチン,ディアディノキサンチン)の分解物であった。 カキ・ホタテの養殖場直下にセディメントトラップを設置し,貝類の糞を主とする沈降粒子を,3〜4日間隔で1ヶ月にわたって捕集し,現場において生成される色素類の量を調査した。粒子の沈降量は,水柱の植物プランクトン量、特に珪藻類の増減傾向と同調していた。糞粒の形状から,セディメントトラップ採集物は,養殖貝類の摂餌量を反映したものと判断された。クロロフィルa分解物としてクロロフィリドa、フェオフォルビドa、ピロフェオフォルビドa、フェオフィチンa、ピロフェオフィチンaおよび未同定のフェオ色素4種類が検出された。ディアディノキサンチン、アンテラキサンチン、ディアトキサンチン以外に分解物を含めて未同定のカロチノイドが沈降粒子中に多量に存在し、上記の摂餌実験の結果と併せて、これらが貝類摂餌の指標として有用であることが示唆された。現在、これらの色素の同定を進めており、また、摂餌速度と分解物生成量の定量的な関係についても解析を行っている。
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