研究概要 |
まひ性貝毒(PSP)を産生する海産渦鞭毛藻Alexandrium tamarense,A.catenella,A.minutumを用いて物理的変異源(紫外線,ヒートショック)による無毒突然変異株の作成を試みた.A.catenella,A.minutumは,それぞれ92株・21株のヒートショック処理と49株・88株の紫外線照射処理株の作成に成功したが,いずれも無毒ではなかった.A.tamarenseにおいては,ヒートショック処理株の作成は出来なかったが,50株の紫外線照射処理株の作成に成功した.分析の結果,50株の紫外線照射処理株のうち39株が無毒であった.処理株に占める無毒変異株の割合が高いことから,紫外線照射処理に用いたA.tamarenseにあらかじめ無毒変異細胞が有毒細胞と混在している可能性が考えられたので,検討を行ったところ,処理に用いたもとの株に無毒細胞が存在していたことが明らかになった.これは長期間の継代培養の間に有毒の細胞が,自然発生的に無毒変異したものと考えられる. 得られた無毒細胞ともとの有毒細胞の遺伝子は,基本的には相同であるが,毒生産に関連する遺伝子に変異が起きているものと考えられる.そのため有毒株と無毒株の遺伝子を比較することによってPSP産生関連遺伝子を明らかに出きると考えられる.遺伝子の解析を行うに当り,他の遺伝子のコンタミを避けるために,有毒株・無毒株を洗浄法により無菌化した.このようにして得た無菌無毒株と有毒無菌株を培養し,mRNAの分析を行った.植物について通常行われているmRNA用の処理法を用いてmRNAの抽出を行ったところ,A.tamarenseではRNaseの活性が非常に高いために十分量回収できなかった.そこで,様々な処理を試み,mRNA分析用サンプルの処理法の最適化に成功した.この処理法は,DNA処理にも併用できる. 現在は,このようにして作成した無毒無菌株と有毒無菌株より抽出したmRNAのサブトラクティブハイブリダイゼーション法による比較を行い,PSP産生遺伝子の解析を進めているところである.
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