本年度は国内における詳細な分布域を調査するとともにクルメサヨリについて形態の地理的な差異を、サヨリについては形態の性差と鱗の発生過程を明らかにした。また、最終年度にあたるため両種の生活史をとりまとめた。まず、クルメサヨリは太平洋側では青森県小川原湖から南は静岡県佐鳴湖、日本海側では青森県の十三湖から南は佐賀県松浦川と、有明海に流入する筑後川、矢部川、六角川、嘉瀬川、鹿島川、緑川と熊本県の江津湖だけに分布するが、サヨリは北海道から九州沿岸に広く生息していた。また、クルメサヨリについて筑後川産、宍道湖産と涸沼産の各体部の長さを比較すると背鰭前長、肛門前長、尻鰭基底長と鰭条数以外の形質について有意に差が認められ、平均脊椎骨数では筑後川産が50.0本、宍道湖産が51.4本、涸沼産が52.0本であった。サヨリの平均脊椎骨数は、雄で60.21±0.71、雌で59.39±0.74であり、それらの間には統計的有意な差が認められ、雄のほうが脊椎骨が多いことが明らかになった。今後、クルメサヨリについても雌雄の違いを検討する必要がある。筑後川におけるクルメサヨリは4月末から8月初めに親魚が感潮域上限の河口から25km上流の筑後大堰下流部に主産卵場を形成し、仔稚魚は8月まで河川上流に生息するが、10月には河口域や有明海沿岸に移動する。この間、ワムシ、カイアシ類、ミジンコ類、次に昆虫類を摂食し、1日約0.9mm成長する。翌年の4月上旬から河川を遡上、体長12〜15cmとなり4月末から8月上旬に産卵し、生後1年で斃死する。また、本種の産卵が感潮域の抽水、浮葉植物や浮遊物に行われることが明らかにされ、減少の原因が河口堰建設、取水と河川改修と推察されることより保護のため感潮域内にビオトープを考慮したワンドが有効であると結論された。一方、豊前海におけるサヨリは4月下旬から6月下旬に沿岸域の流れ藻などの浮標物に雌雄とも1歳以上で産卵に関与し、仔稚魚は1日1.5mmの成長しながら2ヶ月で体長10cmほどになる。本種の生息域が内湾を中心とし、産卵基盤となる藻類の繁茂が資源に影響するものと推察した。
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