研究概要 |
本研究は、日本では九州以北に生息するサヨリとクルメサヨリの2種についてそれらの特異な成魚の形態の記載と分布から卵内発生様式、仔稚魚の形態変化、成長・食性・生息域などの生活様式と成熟・産卵など生活史に閧する項目を野外調査を中心に室内実験を併用して行ったものである。形態では、両種とも特異的に伸長した下顎に感覚細胞が多く分布すること、魚類では新知見の鱗が鰓蓋部から形成し始めることや性や地域によって形態の差異があることを明らかにしている。また、クルメサヨリは朝鮮半島と中国北部にも生息するが日本では青森県から佐賀県と静岡県の他、有明海流入河川に分布することを示している。産卵は両種とも1歳から行うがその体長はクルメサヨリ12〜15cmに対してサヨリは18〜19cm、産卵期は1ヶ月ほど前者で早く始まりいずれも8月まであり、その間、前者で直径平均1.4mmの卵を毎回300〜800粒、後者で直径2.1mmのものを多回産卵することなどを究明している。仔稚魚の成長は前者が1日0.9mm、後者が1.6mmほど体長が伸び、きわめて早いことを示している。産卵場所や仔稚魚の成育場所は前者では河川感潮域の浮葉植物、抽水植物や浮標物などが、後者で沿岸域の流れ藻や浮標物が多いところであり、前者は9,10月に河口域を経て、冬季には有明海で動物性プランクトンを接食しながら成育して4月になると産卵のため川を遡上し、産卵後1歳の生涯を閉じる生態を、後者では内湾や瀬戸内海のようなやや閉鎖的な海域の沿岸で仔稚魚期を過ごした後冬季には体長15cm以上となり、やや沖合に移動することが推察され、2歳は生存することなどを解明している。そして、これらの知見をもとにクルメサヨリの資源減少は河川改修と河口堰が関与していることを指摘し、水面の減少した河川感潮域にワンドや支流を利用して新たなビオトープとして産卵域と成育場所を創造することを提案している。
|